健脚ラボ

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【読書】極夜を追体験 ナイトラン経験者ならよりリアルに感じれる探検本:極夜行 角幡雄介

山やトレイルでの夜間行動、ヘッデンの灯りだけが頼りの行動に不安を感じ、そして夜が明けてきた時に、ちょっと安心する。こんな気持ちを知っている、そんなドMな人たちには、この本の世界観に共感してもらえるハズ!と思い、今回取り上げます。

極夜、太陽が地平線から姿を見せない漆黒の夜。

本書は、そんな極夜を、数か月、単独で旅した冒険家のノンフィクション。

”太陽があることが当たり前になりすぎていて、太陽のありがたみすら忘れ去られてしまった現代社会。人口灯におおわれて闇を駆逐し、闇の恐ろしさすらわからなくなってしまった現代社会。そんな日常を生きるわれわれにとって、太陽のない長い夜の世界には、まさに想像を絶する根源的な未知が眠っているように思えた。”

こんな想いで始まる冒険記、著者の熱量が半端ない渾身の一冊でした。

 タイトル:極夜行

 著者  :角幡唯介

 発行  :2018年2月

冒険の舞台は、北緯77度、グリーンランド最北の村シオラパルク。10月下旬から2月中旬まで極夜がつづく、世界で一番暗い村。太陽が約4か月登らない最北点の村。

世界地図で示すと、赤丸印がシオラパルク。赤線が北極圏(北緯約66°)

地球儀的な地図も添付。赤丸印がシオラパルク、赤線が北極圏。そして赤星印が北極点。世界地図だと、ほほぉ~、って感じだったけど、この見方に気づいて、おぉぉ、すげぇ~、って 唸ってしまった。

”人生には勝負を賭けた旅をしなければならないときがある。”

著者が、4年の歳月をかけて入念に準備した、思い入れの強い今回の冒険。そんな探検で、4か月ぶりに太陽を見た時、著者は何を感じるか?、本書を読んでのおたのしみ。

 

本書の読みどころをちょっとだけ紹介。興味あれば、どうぞ。

1.太陽は当たり前じゃない

著者が現地入りしたのは11月初旬。村はもう2週間前から太陽が昇っていないものの、昼間はうっすらとした明かりにつつまれている。そして、そのうち24時間の闇に閉ざされる。

本文には、”昼に起きても全然明るくないので何をする気も起きない。ずっと暗くて朝昼晩のけじめがないので、何かを昼の間におわらせなければならないという義務感が生じない。”とある。現地で生活している人でも、”気分が落ち込んで、夜眠れなない”、そんな症状が、初冬のこの時期には、起こるそうだ。

そんな生活を想像するだけで、気が重くなる。

ボク自信も、ナイトランの時に、空が明るくなってきた時は、うれしい。力がみなぎってきて、元気になる。次元の違う話だけど、太陽はありがたい。

猛暑日が多い近年、太陽は今や悪者扱い。ごめんよ、太陽。。。

2.人間界のシステムからの脱依存

冒険とは脱システム、と著者。この信念のもと、今回の冒険中、人間界のシステムである”GPS”と”気象情報”を、著者は原則使わない。

1つ目の「GPS」。GPSを使わず、地図とコンパスを頼りに、星座の位置で方角を見定めて行動する。明るければ、地形を目視することで、現在地の判断材料になる所が、全くできない。見えるのは、ヘッデンで照らされる範囲と、本の表紙のように月明かりでぼんやり見える程度。登っているか下っているか、足の感覚に頼るしかない。氷で覆われたアイスランドの土地、頼れるのは、地図・コンパス・星座の情報と、数回訪れた時の地形の記憶。著者のナビゲーション能力の高さが超絶。

そして2つ目の「気象情報」。最北の地でもインターネット経由で情報の入手は可能らしいが、著者は行わない。荒れ狂うブリザードに遭遇すること数回。そして、気温は、人間の生理的限界を超える氷点下30度以下。こんな過酷な環境下において、いつ収まるや知れぬブリザートと格闘。特注テントが吹き飛びそうになる程の強風、吹雪が続きテントが雪に埋没しそうな状況でも、ブリザートが収まる気配を、風の音を聞き、じっと耐えしのぐ。著者の忍耐力と決断力がすごい。

複雑な氷河の地を天測で旅する著者の姿は、かっこいい。

現在のボクは、完全にスマホ依存症だ。。。。

3.人間と犬との強い絆

シオラパルクでは、犬橇が村人の生活の足として機能している。人間と犬がお互いに協力することで、この極寒の世界を生き延びてきたんだなぁということが、ひしひしと伝わる。

今回の冒険でも、数十キロの荷物、主に数か月分の食料を、1頭の犬と共に橇(そり)で運んで旅をしている。橇引きの搬送能力として、そして白熊対策の番犬として、犬はなくてはならないパートナー。著者と犬との絆にも注目。

もののけ姫の狼みたいに凛々しい姿、寝っ転がって腹をさすってほしい甘えた姿勢をとるシーン、旅の過酷な描写が多い中で心が休まり、ほっこり。。。

本書は、極夜を追体験できる、貴重な作品。その時の著者の感情の起伏や、とどめもなくあふれでてくる内面の描写が、読み手に響く。

そして、極夜の中を彷徨するシーンは、トレランのナイトパートでの体験があるからか、今回の旅の過酷さと絶望感を、リアルに感じた。読んでいて辛く、息苦しく、のどが渇く内容だ。

冒険好きに、おすすめの一冊。

 

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では、また。

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